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どっちの方が弔いになるんだ?

 私が高校の頃に通っていた数学塾は、私と東大に現役で合格した友人の二人を、私立ということで、一学年上のクラスに入れてくれた。もちろん、一番できない私がいわゆる『怒られ役』だったのだが、すぐに、ワザと私を怒られ役にしていることに気が付いたから(私の学校の先輩はもっと出来なかった)毎週、謝り通しだった。親玉の先生は、日本人で初めて数学のノーベル賞ともいえるフィールズ賞を取った、あの小平邦彦先生の娘だった。幼少の頃から病弱で、早朝に勉強していたらしい。終電で帰らせる先生で、その代わり月謝も高かった。私の家などは毎月払えず、ボーナスで高校生が何十万と持って行っていた。講師の先生に、ぶ厚い月謝袋を差し出して、「数が合っているか数えて下さい」と言う時の、快感な事快感な事。先生は月謝を滞納しても、何一つ言わずに、実力で評価してくれた。授業の途中で、いきなり入ってきて、「何故大学に行くのか?」という質問をぶつけ、私以外は「~になりたいからです」という返事の中、私は、「解りません」と応えた。どんなにボロクソに言われても、「解らないものは解りません」と、意地で突っぱね返した・・・今考えるに、そういう答えも当たり前にあるし、みんながみんな、「~になるためです」というのはおかしいと思った。高校生と言っても、たかが、17~18歳である。私はもっと自分の可能性を試したかったのだ。すると、翌週、また親玉の先生が入ってきて、「何故勉強するのか?」というタイトルで原稿用紙2枚書いてこいと言われた。作文の内容は今でも覚えている。しかし、その事については後日、詳しく書く。作文を書いた後、ある日、電話を取ったら、先生からだった。私の作文が非常に優れていることを褒められ、スタンダードクラスとハイクラスと両方に来い、との命令だった。真っ先に私が聞いたのは、「月謝はどうなるのでしょう?」ということだった。今まで通りでいい、という返事を聞いて、「感謝感激です。これまで以上に頑張ります」と応えた。丁重にお礼を言って、電話を切らさせて頂いた。高二の春、この時、心に火がついた。しかし、高二の冬に先生の訃報を聞いた。まだ五十代であった。この時、私は悩んだ。先生の葬式に参加すべきか、学校の授業を受けるべきかで。私はバカクラスにいたが、授業を真剣に聞いていた。先生の霊魂への最大の供養は、成績で返すことだと信じた。悲しくて自分の部屋のベッドの中で泣いた。泣き疲れて、うたた寝していたら、誰かにどつかれた気がして、目が覚めた。ああ、喝を入れられたのだな、と思った私は、高二の三学期は真剣に授業を聞いた。聞くべき授業で眠気に襲われたら、シャープペンシルで足のモモを刺してまで、聞いた。結果、私は事実上、バカクラスの中で1位を取った。しかし、後一点足りなくて、優等生を逃した・・・これじゃあ香典を忘れて葬式に行くようなものである。先生は東京は鶯谷、谷中霊園の中に眠っていらっしゃる。

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