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夢を語る少年 その5

 生徒相手でも、私は真剣に歌う。もちろん、(お寿司は)ニギってはいない。私が歌い終わり、テツの番が来た。タケルも気合で歌っていたが、テツの上手さに驚きを隠せなかった。だてに中学からバンド活動していないな、と感心した。忘れた様に時が過ぎ、私はタケルとテツに好きな曲を聞いて、リクエストしたりして、盛り上げる。気が付くと午後七時を過ぎていたので、「後一回りで終わりにするぞ」と宣言。タケルもテツも気合を込めて歌っていた。目が飛び出るほどの勘定を払い、外に出るとすでに暗い。中学生が遊びに出かけるにしては遅い時間帯だ。改札まで送り、別れを告げると、二人とも、「先生、今日はありがとうね」とタケル。「また塾に遊びに行くから」とテツ。手を振って別れ、私も家路に就いた・・・その数日後、テツが本当に遊びにやって来た。授業開けの私は疲れていたが、コップにお茶を注いで彼に渡した。書類を一気に書き上げたつもりだったが、三十分は掛かった。テツが去った翌年は、妹のアヤの英語を担当していた。テツに負けないくらい、クソ生意気だったが、テツにしろアヤにしろ、何か心の中で背負っているものを私は感じていた。テツとアヤを車で送ってやることになり、ナビに住所を入れて運転していると、ボソッと助手席のテツが語った。「こないだ九時に家に着いたんだけど、タケルが叔母さんから叱られていたよ。タケルは泣いていたけれど、どんなことがあったのかは、一言も口にしてなかった・・・まあ、タケルの叔母さんて教育ママだから仕方ないけれどね」と。それを聞いた私は、「俺は今度いつタケルに会えるか解らないから、仲のいいテツから俺が詫びていたと伝えておいてな」とテツに頼んだ。テツは、「うん解ったよ。でも、もう、ほとぼりは冷めているから、タケルも気にしていないよ」とのフォロー。私は自分が恥ずかしかった。テツとアヤを送った後、独りで帰路についている途中、タケルのことで頭が一杯だった。親の説教に対して一言も私のことに触れずに自分で責任を取りきったことを知って、申し訳なさと同時に、あいつも男なんだな、という複雑さが私の心に染み渡った。

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