« 短編集をさらす | トップページ | ジャイアン対策 その1 »

母の悟り

 父が他界する二週間ぐらい前から、母は夏風邪を引き、熱のある中、それでも毎日病院に通っていた。父は胸水がたまり、それを抜く為に入院していた。この頃に、余命半年と言われたそうだが、退院したら直接、私に父が話すからと、母は口止めされていた。そして、退院したら、あと三回は旅行に行こうと言っていたそうである。一度は私も含めて、親子三人で、後の二度は、夫婦水入らずで行くつもりだったらしい。私は余命半年など知らなかったこともあり、体力のなくなった父が、個室に温泉が付いている旅館がいい、と言っていたので、ネットで調べた、近場の温泉街のうちで、適当なものを印刷し、父の病室に持って行ったら、父は喜んでそれを眺めていた。

 病状が急変したのは、父の他界する三日前ぐらいである。胸水がいつまで経っても抜けず、処置室という部屋に入れられた。母は泊まり込みで、病室で父といろんな話をしたらしい。父は、「納得がいかん」などと言っていたそうだが、母はこの言葉も自分で背負い込んでしまった。私は、「余命半年のところが二週間ということで言っていたんだと思うよ」と父の死後まで何度も話した。私は家に弥七君がいたこともあって、三時間睡眠ぐらいで、病院に通った。明け方に着くと、父は、じっと天井を見つめていた。母によると、何か言いたげな目をしていたこともあったらしいのだが、解ってあげられなかった、とも悔いていた。

 昨日、母と話したら、何となく意味が分かった気がする、と話した。「どういうことなの?」と私が聞くと、「父さんは全部解って死んでいった、ということが、二年経った今、やっと解った」と母が穏やかに語った。そして、「それでも、悔しかったんだろうけどね」と呟いた。

 母の長年の悩みが消えたんだなと思った私は、母の悩みが晴れたことを嬉しく思ったし、父の無念に応えるべく、頑張ろうと、思い直した。まもなく父の三回忌である。

|

« 短編集をさらす | トップページ | ジャイアン対策 その1 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/521582/54007285

この記事へのトラックバック一覧です: 母の悟り:

« 短編集をさらす | トップページ | ジャイアン対策 その1 »