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不孝なギャンブル

 父が最初に癌になったという事を聞いたときは、ショックを通り越して、現実をただ認め、対応するしかない状態であった。舌癌と食道癌の併発で、舌癌は放射線治療で治ったものの、食道癌は本格的な手術を受けるしかない事になった。食道癌は、ただでさえ主要な臓器が集まっている部分なので転移しやすく、手術も肋骨を開いて、食道を切り、胃を持ち上げるという、医者にも患者にも大変手間が掛かるものに決まった。幸い早期だったので、不自由はするが、他への転移は防げる見通しの中、術後、数日は集中治療室(ICU)に入らなければならず、三日間ぐらいは意識が無い状態になると聞いていた。母は常に父と行動を共にしていたし、普通なら私も父を見守るのが当然であろうとも考えた。しかし、私は、迷った挙げ句、手術の前後には、敢えて顔を出さない方が得策なのではないかと考え、携帯電話で母に毎日連絡する事を告げて、車に荷物一式を積むと、北へとあてどもなく旅に出ることにした。

 常識から考えれば、私の取った行動は目茶苦茶であるし、親不孝の極みとして、何を言われても仕方が無いと覚悟していた。現に、退院後に父からも、「俺の入院中、遊びに行ってた」と言われたが、ずっと私は無言で通していた。・・・数年後に誤解は解けたが。

 正直に言うと、あのときの私は、何としても父に生還してもらいたかった。その場合、彼岸をさまよう父に、付き添いまくるのが上策とは思えなかった。父が、生き死にの彼岸をさまようとき、生きる方に心が動くためには、この世への未練が鍵を握ると考えていた。わざと術前に会わないことによって生還するエネルギーにしてもらいたかったのである。いろんなケースを覚悟した上での、自分勝手で不孝なギャンブル(勝負手)に賭けたのだ。

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