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バイオリンの神童

 先日、モスクワのチャイコフスキーコンクールのバイオリニスト部門で最優秀賞を取った女性がいると聞いた。新人の登竜門であり、まさに快挙である。・・・そういうニュースを聞く度に、「もしあの人がいれば?」と私は勘ぐってしまう。それは、故・渡辺茂夫氏のことだ。私は氏の演奏に惚れた一人に過ぎない。友人の結婚式の二次会でも流したが何分、音が悪い。戦後すぐの録音だからやむを得ないのかもしれない。しかし、氏の演奏力の方が上回り、会場では事なきを得た。

 氏と出会った経緯は単純であるが奥深い。何かの用事(多分仕事)で出かけようとして、歯を磨いていた私に氏の音は響いた。たまたま付けていたT.Vからのものだった。私の心の琴線が弾かれた。刺激された。即座に私はT.V局に電話を掛け、アルバムのタイトルを聞いた。・・・断言するが、文章の世界では、詩や歌は、心の奥深くを揺すぶられない限り、ものにならない・・・なかなか、ものともならぬ日常に退屈していた私は、強烈なショックを受けた。楽器のその音色だけでショックを受けた事例は他にもある。盲目のバイオリニストが奏でる音にも惹かれた。音だけを聞いて「この人何者だ?」となったのはこの二件だけである。

 渡辺茂夫氏は、幼少の頃から神童と目され、実際に当時の世界的な音楽家から絶賛を浴び、特待生としてニューヨークのジュリアード音楽院に留学する。どんな待遇だったのか、どんな差別を受けたのかは、我々の知る由もない。きっと辛かったのだろう。氏はまもなく、睡眠薬で自殺を計る。発見がぎりぎり間に合い、未遂に終わるも、手遅れで、晩年を寂しく日本で過ごした。

 繊細過ぎるものほど壊れやすいのか・・・?辛い疑問だ。亡くなった今となっては、確かめようもない。ただ悲しい。しかし、その音色が超一流だったことは疑う術もない。私は氏のアルバムの「コルレイの主題による変奏曲」の演奏を聴く度に鳥肌が立つ。その中の、あるメロディの演奏に慈愛さえ感じるのだ。決して誇張しているわけではない、素直な感想だ。数少ない氏のCDの演奏を大事に、大事に聴いている。

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